柿の葉寿司 北鎌倉

日本人の美意識

“柿の葉寿司” 北鎌倉 (無料動画+テキスト)

 11月のある朝。私たちは里山の葉が色づいた景色を眺めていた。ゆったりとした時間。北鎌倉の某お台所にて「柿の葉寿司をつくる」と聞きつけて、無理言ってカメラを持ち込ませてもらった。
これはどういう料理なのか。今年は多忙にて紅葉を楽しめていなかった私は景色をみて深呼吸した。 さあ、この「柿の葉寿司」が持つ物語とは。

 「柿の葉寿司」と言えば、奈良で目にする緑の葉に包まれた几帳面な寿司を思い出す。びしっと箱に収まり旅先でも一口でいただける重宝な寿司で、葉に包まれているのも何かしらの安堵感がある。それがあまりにも有名すぎて、鎌倉でも「柿の葉寿司」があるとは知らなかった。それもそのはず、それはあるお寺でお客様に出されていた手作りの伝承料理だったのだ。

 北鎌倉の「柿の葉寿司」は、鎌倉のジャーナリスト関口泰氏夫人による考案だと井上米輝子さんは教えてくれた。井上さんは北鎌倉に嫁いで40年が経つ。この料理を今は亡き二人、関口夫人と義母から教わり、お寺のお客様にお出ししていた。今日はその思い出の料理「柿の葉寿司」を皆さんに伝承する日。北鎌倉の料理教室は、柔らかな秋の日差しに恵まれ、笑いに満ちた良き時間が流れていた。

 

 日本人の美意識に感謝して伝えたい秋の一品
 そもそも柿の葉には緑のものと赤や黄色のものがある。この「柿の葉寿司」に使う葉は色を持って落葉したもの。私は普段から柿の葉をまじまじと見ていないため分かっていなかったのだが、選ばれた葉をよく見るとそれは天然の模様が豊かに描かれている。眺めているとその色たちはまるでクリムトの画のように、予期せぬ絵の具を散りばめられた柄にも見えてくる。そして穴があいた様子までもが美しく、自分の薄い感性だけでは手に負えないほどの仕上がりの葉だった。そういう色葉に、季節の新米を炊いた寿司飯と脂ののった鯵を包み込むのだ。この「柿の葉寿司」は人々にこういった世界を魅せる料理でもある。

 柿の葉の美しさに魅了され、自然の有難さは勿論のこと、自分が生活している時間と照らしてみた。するとどうだろう、不思議に普段持ち合わせのない味わいでいっぱいになった。2020年、コロナという稀な時代を頑張っている自分時間に、ふと、ジッとしているだけでいいのかと気づきを与えてくれる。自然の美しさとはなんともタフなのである。

 

 土地に宿る文化
 その土地に生き続いていく文化には、いわゆる理由の必要がない。誰もが各々呼吸するようなもので、それに対して理由も訳もない。伝承されている料理ひとつを見ても、土地に伝わる先代たちの意識や跡が生きている感じがやまない。それがその地の財産であり、人間力となり、果ては未来になるというのに、どうして私たちは気づかないのだろう。容易にフランチャイズに慣れすぎた自分の人生を振り返り、忘れてはならないものの象徴として、今回の北鎌倉の「柿の葉寿司」を眺める。必要以上に手をかけず、自然のままの材を生活表現に添えるように取り入れる潔さ。自然に委ねる人の意識は、完成した「柿の葉寿司」を手に取る時の高揚感となる。「あなた本当に分かってる?」と色葉が私に語りかける。

 わずかに北鎌倉はまだ里山の風景が残っている。きっと井上さんは毎年柿の葉が色づく頃になると、樹を見上げてそわそわしているに違いない。自分もそうかも。

 

川瀬美香

編集:大重裕二

音楽:明星/Akeboshi

取材萌芽記

 近く冬の料理風景を「手鑑」でUPする予定。撮影にはもう1台カメラが欲しい気もするけれど、まあ仕方がない。材の美しさに任せて。しかし柿の葉の美しさには驚いた。

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